[特集] サムスンの次世代ディスプレイの研究 (下)

 
本特集記事はサムスン電子の次世代ディスプレイについてまとめたものだ。前回(上編)では、同社のQLEDおよびQDディスプレイについて説明した。今回の下編は、QNEDとマイクロLEDについて書く。
 
 
QNEDディスプレイとは?
サムスンの次世代ディスプレイとされる報じられる一方にQNEDディスプレイがある。

QNEDは、QDがブルーOLEDを発光源にするのに対し、QNEDは微細サイズのナノブルーLEDを発光源にするとされる。それ以外はQDディスプレイと同じ構造だという。LEDは無機物であることから、OLEDの弱点であるバーンインやテレビ寿命の問題を解消できるとされる。業界ではQNEDがQDディスプレイよりも性能面で優れていると評価されている。では、QNEDとQDの関係はどうなっているのか?

ハイ投資証券のジョン・ウォンソク研究員は「QDディスプレイは、2021年にTVパネルが出荷され、QNEDディスプレイは2021年の量産技術の確保を目標に開発されている」と分析している。一方で、KTB投資証券のキム・ヤンジェ研究員は、「QNEDの技術開発速度によっては、サムスンディスプレイが進めるQDへの投資もQNEDに置き換えられる可能性が高い」と述べた。
 

 
また、同国のビジネスポスト紙は、「(QDは)QNED量産時期と1年程度しか差が出ないため、サムスンディスプレイが重複投資を避け、QNEDに旋回する可能性を排除することができない」と予想する。

これらの見方をまとめると、①QDがまず主力となり、同時開発中のQNEDが続くが、②場合によってはQNEDが主力に取って変わる時期が早まるという見方があり、③そもそも両者の量産予想時期が近いのでQNEDに一本化されるのではという見方もあるというかんじだ。

ただ、QNEDはQDに比べ露出情報が少なく、まだ詳しいことは分かっていない。筆者は昨年末、某展示会において講演したサムスンのディスプレイ研究者にQNEDについて尋ねたことがあるが要領を得ないものだった。

開発状況に関しては、韓国のエスエフエー(SFA)という会社が、QNED生産のためのプロセス装置の一部を開発していることが報道(※ジイレック)で確認されている。
 
(参考記事:「サムスンのQNED生産用装置を韓国企業が開発か」)
 
 
「真打ち」はマイクロLED?
QDとQNEDの関係が、少々もやっとしているなかで、その先には、さらに「マイクロLED」という次世代ディスプレイの名前が取り沙汰されている。技術的には実はこちらが「真打ち」と見なされている。マイクロLEDに関しては、サムスン以外のメーカーも開発に励んでおり、QNEDよりも伝わってくる情報も多い。

マイクロLEDは、LED素子一つ一つが自発光し、有機発光であるOLEDに対し、無機発光であることから封止膜がいらず、その分より薄いディスプレイを作れる。また、複数の画面によるモジュール画面構成が可能である。たとえば30インチ前後の小さな画面を連ねることで200インチ以上の超大型画面を作ったとしても、画質と明瞭さはそのまま維持されるといわれ、デザインの自由どうも高い。画面のサイズを大きくするほどコストが嵩み、収率が落ちるとされるOLEDよりも効率的だ。

今年1月に米国で開かれたCESにおいて、サムスン電子は当時世界最大となる292インチのマイクロLEDスクリーン「ザ・ウォール」を公開した。すでに商用などで販売もされている。
 

(サムスンのザ・ウォール))

ただ、価格がべらぼうに高い。現在では、75インチのサイズで1~2千万円の価格とされる。生産台数は年間1千台未満とされ、家庭用として量産するにはまだ時間がかかりそうだ。KTB投資証券のキム・ヤンジェ研究員は、マイクロLEDTVの量産は2026年になると予想している。2022年に家庭用の量産に入るという報道も出ているが、これは時期的に早すぎる印象がある。すべての報道が正しいものではないという視点も必要だろう。

(参考記事:「韓国コセス社とサムスン、マイクロLEDリペア装置供給で協議か」)
(参考記事:「サムスンがマイクロLEDチップ供給源を拡大」)

マイクロLEDは技術的にもOLEDを分かりやすく超えており、「ゲームチャンジャ―」になり得る存在である。しかし、家庭用に販売できるだけの低価格化を実現できなければ、サムスンはQNEDを引っ張るという見方もある。
 
 
まとめ
このようにサムスンの次世代ディスプレイを巡っては、QD・QNED・マイクロLEDともに、これが本命だと言い切れないところがある。一種の製品ポートフォリオと言っても良いのだろう。コストダウンの程度やタイミングにより主力は変わり得る。サムスンが(QLEDのように)ときにマーケティングを駆使しながらも、世界のテレビ市場においてイニシアチブを握り続けようとしていることだけは間違いない。
 
(参考記事:「[特集]サムスンの「超格差戦略」とは何か?(上)」)
(参考記事:「[特集]サムスンの「超格差戦略」とは何か?(下)」)
 
 

執筆:イ・ダリョン=編集長

 
 

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