LG化学は、今年第一四半期の電気自動車バッテリー市場において、世界シェアで一位となった。
新型コロナウイルスの影響により、中国企業であるCATLやBYDが生産量を落としたという背景はあるが、LG化学のバッテリー使用量は前年同期の2.5GWhから5.5GWhと2.2倍も増加しての首位昇格となった。
(参考記事:「LG化学が世界1位に 第一四半期のEV電池シェア」)
今後、中国市場や生産体制が正常化されるに従い、再び競争は激しくなると予想される。しかし、今回のLG化学の躍進は、中国市場(および補助金)への依存度が高い中国企業に比べ、世界的に展開する同社の戦略が、強みとして作用した結果でもある。
LG化学は現在、米国・欧州・中国のなどに生産拠点を構築し、事実上全世界を網羅する営業網を確保している。米国はオハイオとミシガン州、欧州はポーランド、中国は南京にそれぞれ生産拠点を有しており、3月にはポーランド工場を拡張すると報じられたばかりだ。LG化学の電気時自動車バッテリーの生産能力は、年内に100GWhに達し、2023年には210GWhまで増加すると見られている。
(参考記事:「LG化学、ポーランドのバッテリー工場増設へ。近隣工場買収」)
バッテリーの供給先には、ルノーやアウディ、米ルシードモーターズなどがあるが、電気自動車を主導するテスラへの供給が今年1月に決まるなど、存在感を強めていた。これまでパナソニックがテスラに単独で供給していたが、LG化学(とCATL)が新たに加わった。今年2月はLG化学の供給量の方がパナソニックを上回ったという報道もあった。
(参考記事:「LG化学、テスラへのバッテリー供給が急拡大」)
LG化学の母体であるLGグループは、そもそも化学事業を基盤に成長した企業である。LGグループの起源は1947年に設立された「ラッキー化学工業社」にある。同社は化粧品を作る家内工業の会社だったが、やがて化粧品の容器や石鹸などにも手を広げ、上場にまで至った。その後多角化し、現在はOLEDディスプレイやスマートフォンなども手掛ける総合企業グループとなったが、化学事業はいわばLGの背骨であり、他の韓国バッテリー社(サムスンSDI、SKイノベーション)に比べ一日の長がある分野だ。
ちなみにLG化学の全売上に占めるバッテリー事業の割合は29%だ。(2019年基準)同社の稼ぎ頭は石油化学事業であり全体の54%を占める。利益率も9.1%と、同マイナス5.4%のバッテリー事業の赤字を埋めている形だ。(第一四半期はそれぞれ6.6%とマイナス2.3%となり格差は改善している)
各種市場調査で、電気自動車バッテリーは今後大きく成長することが確実視されており、そこに大きく張るのがLG化学だが、積極的な投資が重った結果、負債比率が高まり、市場から懸念視され始めていた。
韓国メディアなどによると、LG化学の総借入金は2018年末時点で6兆9048億ウォン(約6000億円=現在レート)で、昨年末が8兆4143億ウォン(約7300億円=同)であり、今年第1四半期末の時点で11兆5537億ウォン(約1兆円)にまで増えている。負債比率も同期間に81.5%→95.7%→113.1%と高くなっている。
そのような状況から、国際格付機関であるスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、昨年12月にLG化学の信用格付けを従来の「A-」から「BBB+」とし、ムーディーズは2月に「A3」から「Baa1」に一段階ずつ下げた。
同社は第一四半期業績の発表後のカンファレンスコールにおいて、設備投資を当初の6兆ウォン(約5200億円)から5兆ウォン(4300億円)に減らすと発表するなど、市場の目も意識しだしているようだ。もちろん、新型コロナウイルスの影響も考慮しての判断だろう。
とはいえ、LG化学のバッテリー事業への傾倒が今さら変わるわけではない。すでに得たシェアや投じたリソースから見ても、ここで後退する理由が見当たらない。設備投資を減らすとはいえ、バッテリー事業に関しては当初予定の3兆ウォンを維持する構えだ。電気自動車の普及が欧州を皮切りに本格化するなかで、LG化学は今後も「張り」続けるだろう。
LGグループは3月20日、クォン・ヨンスLGグループ副会長をLG化学の理事会(取締役会)議長に選任した。クォン氏はかつてLG化学の電池部門を率いた過去あり、その後はLGディスプレイを世界水準に引き上げた実力者とされる。その氏をLG化学の要職に据えたことは、バッテリー事業をさらに強化するためであると見られる。バッテリー事業を分社化するという見方もある。
(参考記事:「LG化学にクォン・ヨンス氏が復帰。LGディスプレイ躍進の立役者」)
LG化学にとって、SKイノベーションとの電気自動車バッテリーをめぐる訴訟合戦が、LG化学側の勝利として半ば確定したことは肯定的な要素だ。これによりSKイノベーション側から巨額の和解金が支払われるという見方が有力だ。
(参考記事:「[特集]EV電池をめぐる韓国企業同士の争いが終結か?米ITCが判決」)
また、バッテリー事業も売上こそ新型コロナウイルスの影響で減少が予想されるが、今年後半には黒字化するという推測が流れている。そして、冒頭で触れたとおり、今年第一四半期の世界シェアで1位を取ったことは、同社の知名度やイメージを向上させる効果もあるだろう。
ユアンタ投資証券のファン・ギュウォン研究員は「LG化学は、ポーランドのバッテリー第2工場増設の効果により、第3四半期から自動車用電池を含むすべての電池部門で黒字転換することになるだろう」とし「株価回復の強さが、下半期に行くほど強くなり、今年は堅調な業績を収めるだろう」と予想した。
LG化学のシン・ハクチョル副会長は7日、同社の新たなビジョンを発表。化粧品の蓋を作っていた企業が今では最高水準のバッテリーを作る企業となるなど夢を叶えてきたとし、化学企業から科学企業に転換していくと語った。科学企業とは、電気自動車バッテリーを意識したキーワードであると韓国メディアではみられている。