[特集]LGの有機ELパネル供給に狂い。五輪商戦を前に不安広がる

東京オリンピック、サッカー欧州選手権を目前に控えるなか、今年テレビ販売の目玉となるはずの有機EL(OLED)テレビが、販売する前から不足する可能性が出てきた。大型OLEDパネルを独占供給するLGディスプレイ社の量産に支障が出ているからだ。

中国広州にあるLGディスプレイの有機発光ダイオード(OLED)工場の量産開始時期が半年以上遅れている。東京オリンピックを控え、シャープやファーウェイなど世界各国のテレビメーカー19社にOLEDパネルを供給する予定の同社だが、その供給力に不安が出ている。

(参考記事:「LGディスプレイのOLEDパネル供給先が19社に」)

 
「脱LCD」を掲げるも、広州OLED工場の量産が遅れに遅れる

現在、LGは「脱LCD」を掲げている。中国勢との競争でレッドオーシャンとなった液晶表示装置(LCD)テレビから脱し、有機ELテレビ(OLED)に主力事業を移行する戦略を推進する。しかし、中国広州工場の生産安定化の遅れや、最近の新型コロナウイルスの蔓延により、OLEDパネルの量産を開始できていない。

複数の韓国メディアによると、LGディスプレイは中国・広州工場の量産開始時期を現在も確定できていないという。当初は昨年の8月から量産を開始する予定だといわれていたが、その開始時期が遅れに遅れている。機器の生産効率化と新規素材の導入などの影響で、収率(歩留まり)安定しないという。今年に入り、1月中には量産を開始できるという報道も流れたが、まだ量産開始には至っていない。

(参考記事:「LG広州工場、収率改善で今月末に量産開始かLG広州工場、収率改善で今月末に量産開始かLG広州工場、収率改善で今月末に量産開始か」)

(参考記事:「中国新型肺炎で韓国企業も影響。サムスンは工場再開遅延」)

 

新型コロナウイルスにより改善作業を行えず

韓国メディア・チョソンビズ紙が17日に報じたところによると、現在LGディスプレイは広州工場で生産したサンプルパネルの品質認証を受ける過程にあるといわれ、まだこれをクリアできていない状況だという。同紙によると、OLEDの核心製造工程の一つである封止(Encapsulation)工程において不良が出たとのこと。そこへ、新型コロナウイルスが発生したことにより、不良改善の作業がスムーズに行えない状況になったようだ。

※封止工程はOLEDパネルが外部の影響を受けずに長く使えるよう仕上げる段階。水分・酸素に脆弱なOLEDパネルの寿命を決定する重要な工程といわれる。

 
生産量は約半分のレベル、他社にパネルを供給できない?

現在、LGディスプレイ全体のOLEDパネル供給量は、当初計画に比べ約半分の水準に留まっていることになる。本来であれば、韓国の坡州(パジュ)工場(月7万枚)と、中国広州工場(月6万枚)を合わせ13万枚のOLEDパネルが生産されていなければならない。しかし、現在稼働しているのは、坡州工場の7万枚のみだ。

業界では、中国広州工場の量産開始時期が今年の第2四半期までずれこむのではないかという見方も出ている。その場合、世界各国のテレビブランドによる有機ELテレビの販売にも支障が出ることになる。大型OLEDパネルは、全世界でLGディスプレイのみが供給しているからだ。

LG電子は、米国のビジオ、中国のファーウェイやシャオミ、日本のシャープなど、現在、19社のテレビメーカーにOLEDパネルを供給することになっているが、このままでは必要数量を満たすことができない模様だ。東京オリンピックを控え、有機EL(OLED)テレビの需要が高まる時期だけに、供給が不足した場合の信用失墜や機会損失は小さくないだろう。

 
量産開始は第二四半期までずれ込む?

ジョン・ホヨンLGディスプレイ社長は1月、米国の家電展示会(CES)2020の開幕を控え開かれた記者懇談会において、「第1四半期中に広州工場の量産システムを構築する」と述べていた。また、1月末開かれた実績発表のカンファレンスコールにおいても、LGディスプレイは「広州工場の歩留まりの問題が解決され、第1四半期の稼働に問題がない」とし、第1四半期中の量産を宣言していた。

しかし、韓国メディアや証券アナリストは、量産開始時期はさらに延期されるとの見方を示す。中国の新型コロナウイルスの影響により、不良改善のため広州工場に派遣されていた韓国のエンジニアたちが急遽帰国し、彼らが再び広州に復帰できる時期が現時点で分からないためだ。

広州が所在する中国広東省は、新型コロナウイルスの震源地である湖北省に次ぎ感染者が二番目に多いとされる。現在、感染確定者数は1300人を上回っている。広州は今月7日から閉鎖管理地域に指定され、部外者の出入りが厳しく管理されている。そのような状況であるため、LGディスプレイの広州工場の量産開始時期は、第二四半期まで延びるという見方が広がっている。

 
市場調査機関は格付を一斉下方修正

このような状況を反映してか、グローバル市場調査機関であるIHSは、今年OLED TV全体の販売量を従500万台としていたが、最近450万台に減らした。また、韓国の信用評価機関3社は11日から17日にかけ、LGディスプレイの信用格付けを「AA-」から「A +」に下方修正した。

LGディスプレイは2019年の純損失が約1兆3593億ウォン(約1260億円)に達するなど、史上最大の赤字を計上した。負債比率が高まっていることも懸念されている。そこへOLEDの量産の遅れが追い打ちとなり、格付けにも影響したようだ。

 
悪材料ばかりというわけではない

まさに切迫した状況のLGディスプレイだが、好材料が無いわけではない。

例えば、最近は新型コロナウイルスによる影響で中国企業によるLCD生産が滞っていることから、市場ではLCD価格が上昇しており、LGディスプレイの売上や株価にとって少なからぬプラス材料になるとみられている。同社は「脱LCD」を掲げるが、売上の7割はまだLCDであるとされており、思わぬところで「一息」つける材料となっている。

(参考記事:「中国の新型肺炎で「一息つける?」韓国ディスプレイ業界」)

また、肝心のOLEDの方も、有機EL(OLED)テレビが本格的に売れ出すのは第二四半期の後(7月~)という見方もある。その場合、第二四半期中にLGディスプレイが広州工場を量産開始できるのであれば、有機ELテレビの商戦が熱くなるころには何とか供給を間に合わせることができる。それまでは韓国坡州(パジュ)の工場をフル稼働させることで乗り切れる。

KB証券のキム・ドンウォン研究員は、直近のレポートにおいて「2月のLCD価格の上昇は、LGディスプレイの実績改善に肯定的な影響を与えるものと期待される」とし、「第2四半期から本格稼動が予想される広州OLEDラインは、MMGを適用し、既存の計画に比べ遅れて稼働するが、今年のOLED TVパネル出荷量は、前年比82%増の600万台と推定される」と予想した。
 
 

執筆:イ・ダリョン=編集長

 
 

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