[特集]サムスンの「超格差戦略」とは何か?(下)

 
 
(参考記事:「[特集]サムスンの「超格差戦略」とは何か?(上)

 
 

半導体やスマートフォンで世界一位を達成したサムスンという企業の競争力の源には、(競争によって得られる緊張感も糧にしながら)絶え間ない革新を行うというスタイル(超格差戦略)があるということは、エレクトロニクス業界に限らず、ビジネス的観点からも参考にすべき知見であることは間違いない。
 
 
ただし、その競争スタイルが、外の世界からみれば、必ずしも素晴らしいものとしてだけ映っているわけではないのは周知の事実だ。
 
 
例えば、サムスン電子はパク・クネ前大統領の政治スキャンダルの中心人物だったチェ・スンシルにいち早く近づき、数々の便宜を図った疑いが持たれている。そのため、サムスングループの事実上の総裁であるイ・ジェヨン副会長は贈賄罪などで逮捕され、現在も審理中だ。
同社がチェ・スンシルに一早く近づけたのは、同社に強力なインテリジェンス組織があったからだといわれる。その名も「未来戦略室」だ。
 
 
サムスンが持つ情報組織
 
17年に報道された「国家情報院の上に”サムスン情報院”」という時事ジャーナル(韓国メディア)の記事によると、当時サムスンは政官財の多方面に情報協力者が存在し、得た情報は必ずクロスチェックで検証され、全てデータベース化されていたという。金日成や金正日の死も、政府情報機関である国家情報院より早く掴んでいたといわれるぐらいのレベルであるとされる。サムスンが情報を重視する姿勢は創業者の時代から受け継がれてきたものであり、他社とは決定的に違う特徴であると同紙は指摘。そのため情報部門は出世コースであり警察大学出身者もいたという。
 
 
サムスンの情報力重視の姿勢については、日本の半導体専門家である湯之上隆氏(微細加工研究所のCEO兼所長)の著書にも探せる。時間は遡るが2006年時点でサムスン電子には「DRAM、NANDフラッシュメモリと、極論すれば2種類しか品種がないにもかかわらず、そこに230人ものマーケティング要員がいたのである。競合他社と比べると、2桁多い数字である。数だけではない。サムスン電子は、最も優秀な人材を、マーケッターに抜擢する。」と指摘。また、「このような質量とも潤沢なマーケッターが、1990年代に起きたコンピュータ業界の変化、すなわち、大型コンピュータに代わってPCが上位市場になる予兆を的確に捉えた。」と記述している。(『日本型モノづくりの敗北 –零戦・半導体・テレビ-』湯之上隆著)
 
 
上記のマーケティング部門と未来戦略室に関連があるかは確認できていないが、サムスン電子が以前から情報力を重視していた事は間違いないだろう。ただ、その優れた情報力が、脱法的な目的のために活用されたとなると話は異なる。
チェ・スンシルへの便宜供与が明るみに出た後、サムスン電子の未来戦略室は廃止された。世界市場を席捲するパワーを持ちながらも、どこか過剰で、やり過ぎな印象を抱かせるのがサムスンだ。
クォン元会長が、そのようなサムスンの暗部に関わっていたという指摘は目にしないが、クォン会長の著書には、サムスンという企業が持つ、競争へのゼロサム的な感覚が少なからず織り込まれている。
 
 
ゼロサム色の強い感覚
 
たとえば同書の冒頭には「私自身が状況に合わせて変身しなければ、成長はおろか生存もできない」という同氏の言葉がある。また、「自身の位置に満足し、それ以上の変身を止めてしまうと、必ず他の誰かに捕食されてしまう」と説く。そして「圧倒的でなければ、いくら1位であっても一気に崩壊するのが今の時代。より高い成長をするために、超格差という圧倒的体制を強化し、絶え間なく変身しなければならない」と述べている。
 
 
まさに、「殺らなければ殺られる」ともとれる記述だ。ハングリー精神というには足りない切迫感のようなものが伝わってくる。朝鮮戦争の最中(52年)に生を受け、テレビも満足に作れなかったという当時の三星(サムスン)に入社し、研究者から叩き上げてきたクォン元会長からすれば、これくらいは当たり前の感覚なのかもしれない。また、半導体事業という一種のチキンゲームにおいて勝ち残った製造企業であるからこそ、絶対的優位がないと生存できないというゼロサム的な感覚が研ぎ澄まされたとも考えられる。
クォン元会長のエピローグを次のように結んでいる。
 
 
「これまで私たちは他者が作曲してヒットさせた歌をうまくアレンジしたことで大成功を収めた。しかしアレンジはもう終わりにして、我々自身の歌を作曲すべき時代だ。これからは誰も教えてくれない道を歩かなければならない」

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