[特集]サムスン元社長の中国移籍騒動にみる韓国の危機感

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[特集]サムスン元社長の中国移籍騒動にみる韓国の危機感

サムスン電子の元社長が中国のエレクトロニクス企業にスカウトされた。

(参考記事:「サムスンの元社長、中国OLED駆動チップメーカーの幹部に」)

この問題をめぐって、ここ数日、韓国メディアではちょっとした騒ぎになっているようだ。複数のメディアがこの件を報じ、紙面には「技術流出」という単語が躍る。韓国のエレクトロニクス産業が中国の猛烈なキャッチアップを受けているなか、サムスンという韓国最大の元社長が中国企業の幹部に就任したということで、ニュースにバリューが乗った形だ。
 

サムスンの元社長のチャン・ウォンギ氏

件の人物の名はチャン・ウォンギ氏。サムスン電子でLCD事業部の社長を務め、その後、中国蘇州へのパネル工場の設置を主導し、サムスンチャイナの社長も務めた人物である。今回、中国のOLED駆動チップメーカーである「エスウィン(ESWIN)」社の副会長(副総経理)として就任したのだ。

ちなみに、サムスンの(元)社長といっても、文字通りのトップではない。サムスン電子は社長が何人もいる。日本の大企業の感覚でいえば、事業本部長・副社長ぐらいのポストに該当する。しかし、最高幹部であることは変わりない。
 

(画像:チャン・ウォンギ氏のエスウィン社就任について伝える韓国各紙=Googleニュースキャプション)

 
その元社長が中国エスウィン社の副会長に就任したわけだが、実は就任したのは今年の2月末である。2月28日にエスウィン社のウェブサイトでも発表されていたのだが、韓国メディアは最近になってそのことに気づき報道した。少々間が抜けた話ではあるが、それでも各紙が報じるぐらいのインパクトがあったわけだ。

ちなみに、このエスウィン社の会長に就任したのは王東升氏であり、中国では立志伝中の人物とされる。朝鮮日報(11日)によると、BOEを世界最大のLCDパネルメーカーに引き上げ、中国では「LCDの父」と呼ばれているとか。そんな王会長の招聘に応じて、チャン・ウォンギ氏が副会長に就任したという。
 

中国企業に引き抜かれる韓国人材

近年、様々な分野で中国企業がキャッチアップするなか、韓国のエンジニアや研究者などは高待遇で引き抜かれていると、韓国メディアでは危機感を持って度々報道されている。特に、ディスプレイや半導体、EV電池といったエレクトロニクス業界の人材がターゲットだ。

例えば、昨年12月、SBS放送は、中国の電気自動車メーカーが韓国のEVバッテリー技術者を引き抜くため、韓国での年棒の3倍から4倍を用意し、他に住居や自動車も提供したと報じた。

(参考記事:「好条件で韓国の技術者を引き抜く中国EVメーカー」)

直近だと、中国のJHICC(福建省晋華集成電路)が、「韓国の半導体業界のエース」の勧誘に成功したマネートゥデイ紙が報じた。また、BOEの工場では多くの韓国人エンジニアが就労しているとの情報も伝えた。

(参考記事:「中国JHICCとBOEにおける韓国人技術者 韓国紙が報じる実態」)

より客観性のある情報としては、ITチョソン紙が4月に報じた記事が詳しい。同記事は、IP(特許)コンサルタントによる特許出願文書の分析を基に、中国の半導体ファウンドリ企業であるSMICには、トップクラスの韓国人研究者が60人ほど所属していることを突き止めた。トップに準じる(ジュニア級の)研究者も含めると、その数は100人に上るという。

(参考記事:「中国最大手ファウンドリに韓国人研究者100人超か?」)

このような人材流出に対して、韓国メディアでは危機感を持って報じられることが多い。人材流出はすなわち、韓中企業間の技術格差が縮小を意味し、韓国企業の世界市場におけるプレゼンス低下に繋がることを意味する。かつて、日本企業に追っていた韓国企業が、今度は中国企業に追われる立場になっている。

なるほど、マクロ的にみれば、産業拠点の移り変わりというのは宿命だろう。しかし、かつてのアジアの雁行型形態とは異なり、後ろから追ってくる中国は、もはや超大国といっても過言ではない巨鳥だ。中国は「中国製造2025」を指針に、エレクトロニクス産業などに巨額のバックアップを行っているといわれており(※このことが米国の警戒心を引き起こしたとも言われるが)、追われる方はたまったものではないだろう。
 

今回は過剰反応か?

ところで、渦中の人物であるチャン・ウォンギ氏は、韓国経済新聞の電話取材に答えている。同記事(12日)によると、チャン氏は技術流出の懸念について、自身が半導体に関わったのは30年前であり、LCD事業も10年以上が経っており、「流出する技術がない」と断言したという。

また、今回の就任には、旧知の仲だった王会長に誘われたことが理由であり、サムスンに迷惑をかける意図はないことを再三強調。また、エスウィン社の製造する「ウエハーCOFはサムスンも必要とする製品です」とし、サムスンの利益に反するものではないと説明している。

今回の件は、韓国メディアによる過剰反応である印象を持つ。危機感の裏返しでもあるのだろう。

 
 

執筆:イ・ダリョン=編集長

 
 
 


 
 
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