[特集]WTO事務総長選立候補にみる韓国側の意図

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[特集]WTO事務総長選立候補にみる韓国側の意図

韓国代表による所信表明

世界貿易機関(WTO)事務総長に出馬したユ・ミョンフィ産業省(産業通商資源部)通商交渉本部長は16日(現地時間)、スイスのジュネーブにあるWTO本部において、立候補に際しての所信表明演説を行った。

(参考記事:「WTO事務総長選で所信表明、韓国から立候補のユ氏」)

所信表明において、ユ本部長は、15分の持ち時間の間に、WTOが通商交渉の停滞や貿易紛争解決の最終審にあたる上級委員会の機能不全などについて取り上げ、WTOが危機に直面しているとの見方を示した上で、WTOが世界からの信頼を回復し、新たなルール作りや、改革をしていくべきであるとの旨の演説を行った。
 

(写真:ジュネーブにあるWTO本部=iStock)

 
韓国でも日本でも、ユ本部長の立候補の理由が、半導体3品目の輸出規制・輸出管理強化の文脈で報じられている。そのような理由が韓国政府やユ本部長から公式に語られたわけではないが、蓋然性は高いように思われている。

とはいえ、今回のユ本部長の所信演説全文を読んでみても、日本を非難するような文言が並んだわけではない。あえて挙げれば、「保護貿易主義の拡大と貿易関連の緊張の高まりによって困難な(世界の)状況」という一般的な表現があったぐらいで、後は(WTOの理念である)多国間貿易の重要性を訴え、WTOを発展させようという内容に終始している。
 

日本にも秋波?

逆に日本への対話を呼びかけている。聨合ニュース(17日)は演説後の記者会見において、日本の記者による「両国の貿易紛争においても日本を他の加盟国のように支持するつもりはあるか?」という質問に対し、ユ本部長は「韓国を代表してではなく、WTO事務総長候補としてこの場に来た」と答えた。

ユ本部長はまた、「韓国と日本は、多国間貿易体制の恩恵を受けており、これを維持・振興・強化する必要がある」とし「両国は、これまで国際機関から多くの問題について協力してきた」と説明した。続けて、「日本が事務総長候補を選ぶときに、誰がWTOを改革する上で適任者であるか能力と資質を見極めるもと思う」とし「日本の同僚たちにも会い、私のこのようなビジョンを紹介したい」と述べた。

これら発言を額面通り受け取るか否かは、各人の想像力に委ねられるが、いずれにしろ「真面目」に選挙に取り組もうとしているのは確かだ。WTO事務総長は各国による投票(脱落方式)で決まるだけに、当然ながら特定の国を批判するような「ワンイシュー」選挙に生産性はなく、むしろ個別の紛争案件に恣意的な介入をするような印象を与えればマイナスに作用する。
 

ユ本部長の人物と下馬評

ユ本部長は、韓国の蔚山(ウルサン)出身であり、1990年にソウル大学の英語英文科を卒業後、同国の通商産業省(現産業通商資源部)に入省。1995年にサービス・競争課長を務め、韓米FTA締結交渉に参加するなど、通商の分野の専門家として従事してきた。BBCコリア(16日)は、ユ本部長は同国では女性初の通商分野専門家であり、韓米FTA交渉においても韓国側で数少ない女性メンバーであったと伝えている。
 

(画像:ユ・ミョンフィ韓国産業省通商本部長=産業省提供)

 
ユ本部長がWTO事務総長に当選すれば、WTOでも初の女性事務総長になる。しかし、現在のところ、最有力とされるのは韓国のユ本部長ではなく、同じく女性であるオコンジョイウェアラ元ナイジェリア財務相であると各紙が報じている。

韓国のYTN(16日)も、これまでWTOの事務総長にアフリカ出身者および女性が選出された事がないことから、世界銀行での従事経験もあり知名度もあるオコンジョイウェアラ元財務相が最有力視されていると伝えた。一方で今回、アフリカから3名の候補者が出馬し、一本化できなかったことから票が割れる可能性を指摘。韓国の立ち位置としては、米中双方と関係が深いことから貿易紛争の仲介をできる点などがあるが、中国はアフリカ候補者を支援するとの見通しを伝えた。
 

韓国側の狙い

実際のところ韓国としては、半導体素材の対日輸入案件も重要ではあるが、ある意味でそれ以上に影響が大きいのは米中の対立だろう。もちろん、ファーウェイへの制裁によって得られるような「漁夫の利」もあるが、このまま米中の対立とデカップリングが進めば、TSMCのように「踏み絵」を踏まされることも予想される。中国において半導体やEVバッテリー、ディスプレイパネルなどを作る韓国主要企業にとって、判断を誤れない死活問題だ。
 
(参考記事:「[特集]さらなる対中制裁、「最悪の事態」を想定した韓台企業の動き」)
 
そもそも貿易依存度の高い韓国にとって多国間自由貿易が重要であることは論を俟たない。なので、今回の韓国(ユ本部長)の立候補は、「日本への対抗心」というような感情問題に留まらない、大きな利害がある。

実際、韓国の経済団体が分析しているように、日韓の半導体業界が正常に分業を行ったときの経済効果は約8.7兆円ともいわれている。(※これは分業が絶たれた場合に日韓が被る損害額でもある)素材や部品の国産化に邁進しつつ、貿易などの分業が重要であることは、韓国各紙でも指摘されている。

(参考記事:「[特集]日韓分業正常化で半導体など8.7兆円の効果…韓国の「経団連」が関係改善を提言」)

一方で、事務総長に当選できないとしても、同選挙を通じて、「自由貿易への想い」をアピールしておくことが、日本とのパネル紛争・採決においても間接的に有利に働くぐらいの計算はあってもおかしくない。
 
 

執筆:イ・ダリョン=編集長

 
 


 
 
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