[特集]米国の支持で韓国はより難しい立場に? WTO事務総長選をめぐるジレンマ

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[特集]米国の支持で韓国はより難しい立場に? WTO事務総長選をめぐるジレンマ

昨日も報じたとおり、WTO(世界貿易機関)の事務総長選は「延長戦」に突入した。
 
「延長戦」に残った韓国候補

ナイジェリアのオコンジョ・イウェアラ氏と韓国のユ・ミョンフィ氏が残った最終選において、前者はEUやアフリカ、中国や日本などWTO加盟国の6割以上(100余カ国と推定)の票を抑えたが、米国代表団が反対を示したため、全会一致制をとるWTO事務総長選は結論が先延ばしとなった。
 
(参考記事:「WTO総長選は米国の反対で延長戦へ…得票数で劣るも韓国候補が当選の可能性も」)
 
今後は、互いの陣営に対する説得や交渉を経て、最終決着に向かうことになる。超大国である米国の支援を受けた韓国にとっては「敗者復活」のまたとないチャンスを得たことになるが、状況を冷静にみると決して好ましい状況ではなく、むしろ早期に事務総長選を辞退することが最も合理的な判断であるようにも思われる。
 

 
米国がユ・ミョンフィ候補を支持した理由として、(米USTRは)貿易分野での豊富な経験があるということを挙げており、そのため混乱期のWTO運営に適していると評価した。たしかに、オコンジョ・イウェアラ氏は世界銀行の副総裁やナイジェリアの財務大臣などは務めたが通商交渉の専門家ではなく、ことスキルの面でみれば、USTRの声明はたしかに一理あるようにみえる。

しかし、各紙が指摘しているように、実際のところ、オコンジョ・イウェアラ氏の出身国であるナイジェリア(および支持するアフリカ各国)が中国の経済的影響力を多く受けている点を懸念した結果であり、米中対立の結果として韓国候補が残ったというのが実態だろう。

もちろん、米中対立の文脈も読んだ上で、韓国政府が外交を展開した可能性もないわけではないが、たとえそれが奏功したことで「延長戦」に突入できたのだとしても、韓国のユ・ミョンフィ候補はむしろ難しい立場に置かれたと言わざるを得ない。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)は28日、「アメリカの反対を受けて、同席していた2ダース以上の政府や国際機関の代表者たちは、欧州の同盟国、中国、カナダ、ラテンアメリカ、アフリカ諸国のすべてがアメリカに反旗を翻し、騒然となった」と報じているように、6割を超える多くの国がナイジェリア候補を支持したなかで、アメリカンの土壇場での「ゴリ押し」がさく裂したととられたことが伺える。

多国間主義の象徴であるWTO事務総長選において、その実現を熱心に訴えたユ・ミョンフィ候補にとって、米国の威を借りて「延長戦」を戦うことは、理念上のイメージを損なう可能性がある。

以前にも書いたが、韓国がWTO事務総長選に候補を出した背景には、日本との半導体素材をめぐる対立に留まらず、米中貿易対立によって世界の自由貿易体制が崩れることは、貿易依存度の高い韓国にとっては死活問題であるからだ。もちろん、政権による宣伝意図と無縁ではないのだろうが、韓国にとって自由貿易が重要であるのは論を俟たない。「自由貿易によって発展した国」というのがユ・ミョンフィ候補の宣伝文句の一つでもあった。それがアメリカンファーストという一種の孤立主義をとってきたトランプ米政権の支持を、よりによって今回のような形で受け取ったのだから、単純には喜べないだろう。
 

米国の支持は韓国にとってジレンマ?

得票数でも大きく劣った韓国ユ・ミョンフィ候補にとって、このまま「延長戦」を戦うにははやり「大義」に欠ける。かといって、「延長戦」を辞退すれば、今度は米国の面子をつぶすことになる。米国はユ・ミョンフィ候補の辞退を望んでおらず、引き続き支持すると明らかにしている。仮に米国の支持が奏功し、「延長戦での大逆転」が叶ったとしても、オコンジョ・イウェアラ氏を支持したEUやアフリカ諸国、中国などとの関係を損なうリスクが生じる。

さらには、11月3日に行われる米大統領選においてバイデン民主党候補が当選した場合、事態はさらに複雑になる。バイデン候補はWTOについて具体的な方針は述べていないようだが、トランプ政権に比べ多国間主義という分析が多い。そのため、バイデン候補当選の暁には、ユ・ミョンフィ候補が「梯子を外される」可能性も浮上する。

内外報道によると、全会一致が成らない場合、投票によってWTO事務総長を決するという見方も出ていると伝えられる。同時に、米国は反対を続けることで、(2名の欠員が続くWTO上級委員会と同様)事務総長の空位が続くことも厭わないという見方も出ている。

韓国各紙でも(左右傾向を問わず)、「早めの辞退が望ましい」というような、外交筋による意見が少なからず目に入る。保守系の朝鮮日報などは、「覇権国である米国の支持がなければWTO選挙は既に終わっている」とし政権与党を批判するなど分かりやすいが、革新系のハンギョレ新聞も「米国の支持が我々としては、ある意味で、ジレンマの状況にもなっている」と状況が複雑であることを認めた。東亜日報は「外交部の内外では、決選投票で押されたユ本部長が《優雅な退場》をすることを検討するという空気もある」と伝えた。

タイミングとしては、(バイデン候補の当選が有力視される)米大統領選の直後あたりに、何らかの判断が韓国政府から下される可能性がある。

 
(参考記事:「[特集]WTO事務総長選立候補にみる韓国側の意図」)
(参考記事:「WTO事務総長選、欧州の有力候補が不出馬へ…「韓国候補に好材料」との見方も」)
(参考記事:「韓国の経団連、駐韓日本大使に輸出規制緩和を要望…経済効果は8.7兆円」)
 
 

執筆:イ・ダリョン=編集長

 
 


 
 
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